ジェームス三木さん死去・かつて新和歌浦と雑賀崎の歌も
2025年6月19日 19時01分
歴史・文化

紀州藩が生んだ徳川吉宗()の生涯をユーモラスに描いたNHK大河ドラマ「八代将軍吉宗()」や、大正時代の千葉県銚子市()(ちょうしし)を舞台に、紀州をルーツに持つ醤油()醸造元の娘と漁師の網元()の長男との悲恋()を追ったNHK連続テレビ小説「澪(みを)()つくし」を手掛けた、脚本家のジェームス三木()さんが、今月14日、肺炎のため91歳で亡くなりました。三木さんは、脚本家になる前、歌手としても活動し、和歌山ゆかりの曲を発表していました。

1955年、三木さんはテイチクレコードの新人コンクールで合格し、1958年ごろに発表されたシングル「憧れの奥新和歌雑賀崎()(おくしんわか・さいかざき)」は、浪曲歌謡の名手・三波春夫()(みなみ・はるお)さんが歌った「雑賀崎音頭()」のB面に収録されました。

歌の舞台になった双子島(左)と沼島(中)中之島(右)(6月19日・和歌山市・雑賀崎灯台)

歌詞には「夢を呼ぶ呼ぶ奥新和歌()」「赤い夕陽が潮路)の果てに、暮れる緑の双子島(ふたごじま)()」「浦の漁り火()、君を招くよ雑賀崎()」といった、和歌山市の新和歌浦から雑賀崎にかけての情景がつづられ、郷愁を呼ぶメロディーと三木さんの朗々とした歌声が、熱海()や伊勢などと並ぶ観光地だった頃の面影を感じさせます。

元・和歌山市立博物館の館長で、生前の三木さんとも交流のあった日本史研究者の寺西貞弘()(てらにし・さだひろ)さん72歳は「大河ドラマ・八代将軍吉宗の時代考証を手伝った頃に、和歌山市内で三木さんと会食した際、“実は昔、憧れの奥新和歌雑賀崎という曲を出したことがあるんですよ”と話し、和歌山との縁があることを私に教えてくれました」と語り「山部赤人(やまべの・あかひと)()らが和歌に詠んだ玉津島(たまつしま)()や片男波()(かたおなみ)が広がる本来の和歌浦は、水平線や砂嘴(さし)()の平行線が折り重なる水平の景観美なのに対して、三木さんの歌った新和歌浦は、景観の美意識が転換する江戸時代以降に価値が高まった、山水画()のような垂直の景観美が特徴で、和歌浦と新和歌浦は、異なる時代の歌とともに、中世と近世の景観美が隣り合って存在する貴重な場所といえます」としています。